重厚長大からライトノベルへ

主にライトノベルの感想とそれに関連するネタを書きます。

感想「さよなら妖精」(米澤穂信/創元推理文庫)☆☆☆☆☆

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

一九九一年四月。主人公、守屋は学校の帰り道で傘を持たずに雨宿りをする同年代の白人の女の子と出会う。その女の子、マーヤは父親に連れられてユーゴスラヴィアから日本にやってきていた。しかし本来、滞在する予定だった知り合いがすでに亡くなっていることが判明して、さらに予定の二ヶ月間ホテルに滞在するほどのお金は持ち合わせておらず、途方に暮れているという。そこで、旅館の娘である友だち、白河にお手伝いする代わりにホームステイさせてもらうことにする。
守屋、白河、友だちのセンドー、文原、そしてマーヤで歴史的建築が保存された街を案内したりしてすごし、そこで見つかる日常の疑問を解決したりして文化交流を深めていっていた。



本来この作品は<古典部>シリーズの第3巻として角川スニーカー出す予定だったらしい。しかし、売上不振から続刊は叶わなかったところ、別の出版社からこの話を単体でだすことになった。そして、そのヒットにより<古典部>シリーズも無事続刊が連載され始めるという好循環な例だ。

[ネタバレ注意]






まあ、分かってた人にはわかってたと思うが(自分もそうだった)、ユーゴスラヴィアという国は現在(2016年)において存在しない。いくつかの国が協力して一つの国となっていたわけだが、お互いの反りが合わず激烈な内戦の果に分裂した。
この作品のマーヤは新しく合わさってできた国の中で自分が新しい歴史になっていこう、そのために色んな国の歴史を知ろうとしている。日本の中でも日常の謎を通していろんなことを学んでいく。お墓に仕掛けられた紅白饅頭の謎などの、あまり表な部分でないところも。この時点で読んでいて心が締め付けられる思いがした。現実を知っている私は小説の中の彼らと違って結末を知っている。それ故にこのマーヤの頑張りに深い印象を与えられていった。
そして、内戦が勃発、日本にもその情報は伝わる。マーヤは滞在する期日が終わりユーゴスラヴィアに帰っていった。彼女はどこの国であるかという謎を残して……。
日常の謎を通して自分たちの文化について見つめ直させられた。みんなに一度は読んでほしいと思った。