重厚長大からライトノベルへ

主にライトノベルの感想とそれに関連するネタを書きます。

感想「ランボー怒りの改心」(前野ひろみち/星海社FICTIONS)☆☆☆☆

作者が突然現れた謎の新人。4編からなる短編集。
中学生男子3人組とミステリアスな少女佐伯さんの話『佐伯さんと男子たち1993』、ベトナム戦争を続けようとする蘇我氏にある男が鉄槌を下す『ランボー怒りの改心』。これぞ奈良版の千一夜物語『ナラビアン・ナイト』、作家を目指す浪人生の元に舞い降りた生駒山の天使佐伯さんとの追想記『満月と近鉄』、(この謎の作家と出会った経緯を記した『解説:仁木英之』)の4編(+1)収録




 発売当初、「夜は短いのか?」、夜の短い人の奈良版といわれた。確かに文章で似ている点はあるが、この作品は無名の作家が書いている。だがしかし、中身は素晴らしく、特に「満月と近鉄」はがよい。でももっとも読んでていいと思ったのは、「満月の近鉄」とそのあとにある「解説」のコンボか? 解説では作者の出所が書かれているが(正確には謎の多き作者ということが分かる)がそこまで読んだときの驚きと興奮がたまらない。ここまで読むとここまで笑いがこみ上げてくる(おもしろいのではなく、興奮で)。こんな作品はなかなかない。ぜひ読んでほしい。

感想「薬屋のひとりごと」(日向夏/ヒーロー文庫)☆☆☆☆☆

後宮小説です。ライトノベルに珍しい女性主人公。
薬屋の娘であった主人公の猫猫(マオマオ)であったが、人さらいに拐われ後宮に売り飛ばされてしまう。猫猫は下女として働く中、ここ最近で妃の子供たちが連続で死亡しており、妃達の様態も悪いといううわさを聞く。薬(と毒)の知識で“おしろい”が原因だと突き止め、さりげなく知らせた猫猫だったが何故か宦官にバレ、帝の寵妃のひとりである玉葉妃の侍女となってしまったのだ。そして幽霊騒ぎや園遊会での毒殺未遂などさまざまな騒動に巻き込まれていく



ミステリーラノベということで購入。そこまで推理要素が強いわけではなかったが、楽しめた。日常の謎みたいに後宮ですごすなかで複数の事件が起きて、薬屋だった主人公が原因を特定するという話。ただし、動機について解明するのは主人公が望んでいないのでそこはあまりない。
ラノベで珍しい女主人公であり、後宮小説ということで性関係にも深く突っ込まれていてよかった。あと壬氏という主人公に突っかかってくる宦官(?)もいるのだが、それを軽くあしらう様がクールでかっこいい(主人公は女だけど笑)。二人の関係も今後気になるところ。

感想「ファンタジスタドール イヴ」(野﨑まど/ハヤカワ文庫JA)☆☆

あの(私の中で)一大ブームを捲き起こしたアニメ「ファンタジスタドール」の前日譚! という名目で作られたSF小説。女性に興味ない(と思っている)主人公が物理法則について世界を揺るがす大発見をしてしまうというお話。


ファンタジスタドールが大好きで野﨑まども好きなのでこの本を買った。とにかくファンタジスタドールは女の子がかわいくて、(特にしめじが好きです)第二期が早くこないかと待ち望んでいるのですが、そんな折に前から気になっていたこの本を読みました。
この何とも言えない表紙や、(まさかの)ハヤカワ文庫JAから出版されるとか、作者が野﨑まどとか(ぉ)いう理由でこの本が萌えアニメをまともにノベライズしているとは思ってなかったけれど、それでもなかなかぶっ飛んでいた。
だってそもそもアニメのキャラが出てこないし、主人公は大学生の男だし(アニメの主人公は可愛い女子中学生です)、「大人な性」の話も出てくるから。(つまりアニメを見ていない人でも読める)




ということで、中身は本格的なSFであるわけだが、私の中ではすこしイマイチだと思った。大物理法則が見つかるわけだが、その法則の理論そのものが物語にもう少し関わってきてもいいと思った。あと、この小説は恋愛(?)要素があるのだが、語りがそこまで好きになれず、あまりのめり込むことができなかったこともある。
もう少し厚くて、恋愛観も熱ければ楽しめたかもしれない。

感想「小説の神様」(相沢沙呼/講談社タイガ文庫)☆☆☆☆

小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

主人公は学生で小説家デビューするも、発表する作品は酷評で売上も伸びないばかり。そんなとき同じクラスに転校してきた美少女で人気作家である小余緩詩凪と二人で小説を書くことに。


この本の主人公は売れない作家感がバリバリ詰まってきてそれが嫌なほど伝わってきます。本当に、主人公が好きになれない! 特に同じ文芸部の後輩で作家志望の女の子に対しての言動が。後輩にアドバイスするシーンで

「プロになって小説を書くっていうのは、商売をするってことだ。需要と供給を理解し、お客さんたちへ彼らの好みに適う商品を提供し続けなくちゃならない」

「タイトルには最弱とあるが、ライトノベルにおいて、実際に最弱である主人公なんてほとんどいない。(中略)自分に自身がなかったりする卑屈な部分はやめて、無双して敵を蹴散らすか、読者が憧れてしまうような、カッコイイ男の設定に――」

とまあ、こんなノリである。だけれども、流石売れない作家である主人公が言うのだから(作者にそういう体験があるのだろうか?)説得力があって、本当にいらつくけれど、続きが読みたくなる小説だった。
メタ的な部分ばかり書いたけれど、中身はちゃんとストーリーがあってそこも(そこが)面白かった。

ちなみに相沢先生自身は小説の神様があるようなないような、そもそも小説の神様って何? という感じだそうだ。

感想「スワロウテイル 人工少女販売処」(籘真千歳/ハヤカワ文庫JA)☆☆☆☆☆

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

〈種のアポトーシス〉の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精(フィギュア)と生活している。その一体である揚羽(あげは)は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団(イエロー)の曽田陽介と共に連続殺人犯"傘持ち(アンブレラ)"を追っていた。




この本をジャンルで表すとすると「ライトノベル×SF with恋愛ミステリー」かな? 横文字のふられた用語、必殺技的掛け声、キャラクターの造形などのライトノベル要素。人工知能から未知の菌類、宇宙的要素まで詰まったSF要素。そこに恋愛要素とミステリー要素をぶちこんで、巨大なロボットとのバトルや一国二制度などのポリティカルなところを混ぜたもの。読了後ここまでの本を読んでしまったことへの恐れ慄く気持ちが沸いてきた。こんなに多くの食材使ってよく味が喧嘩しないな~という気持ちだ。
そして、この本は何と言っても美しい。東京湾に浮かぶ人工島とそこにある巨大な歯車、近未来な街と蝶が飛び回る世界観という情景をついつい脳内で再現してしまいそれが美しい。そのうえ殺人事件のキーとなる愛する人を思う気持ち、主人公の人工妖精であるがゆえの人との違いに悩む様子など、読んでいて美しいと思った。

感想「さよなら妖精」(米澤穂信/創元推理文庫)☆☆☆☆☆

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

一九九一年四月。主人公、守屋は学校の帰り道で傘を持たずに雨宿りをする同年代の白人の女の子と出会う。その女の子、マーヤは父親に連れられてユーゴスラヴィアから日本にやってきていた。しかし本来、滞在する予定だった知り合いがすでに亡くなっていることが判明して、さらに予定の二ヶ月間ホテルに滞在するほどのお金は持ち合わせておらず、途方に暮れているという。そこで、旅館の娘である友だち、白河にお手伝いする代わりにホームステイさせてもらうことにする。
守屋、白河、友だちのセンドー、文原、そしてマーヤで歴史的建築が保存された街を案内したりしてすごし、そこで見つかる日常の疑問を解決したりして文化交流を深めていっていた。



本来この作品は<古典部>シリーズの第3巻として角川スニーカー出す予定だったらしい。しかし、売上不振から続刊は叶わなかったところ、別の出版社からこの話を単体でだすことになった。そして、そのヒットにより<古典部>シリーズも無事続刊が連載され始めるという好循環な例だ。

[ネタバレ注意]






まあ、分かってた人にはわかってたと思うが(自分もそうだった)、ユーゴスラヴィアという国は現在(2016年)において存在しない。いくつかの国が協力して一つの国となっていたわけだが、お互いの反りが合わず激烈な内戦の果に分裂した。
この作品のマーヤは新しく合わさってできた国の中で自分が新しい歴史になっていこう、そのために色んな国の歴史を知ろうとしている。日本の中でも日常の謎を通していろんなことを学んでいく。お墓に仕掛けられた紅白饅頭の謎などの、あまり表な部分でないところも。この時点で読んでいて心が締め付けられる思いがした。現実を知っている私は小説の中の彼らと違って結末を知っている。それ故にこのマーヤの頑張りに深い印象を与えられていった。
そして、内戦が勃発、日本にもその情報は伝わる。マーヤは滞在する期日が終わりユーゴスラヴィアに帰っていった。彼女はどこの国であるかという謎を残して……。
日常の謎を通して自分たちの文化について見つめ直させられた。みんなに一度は読んでほしいと思った。

「中古本は他人が触っていて嫌だから新品を買う」←ちょっと待って、本当に新品の本の方が中古本より綺麗ですか?

皆さんは中古本を買うことをどう思いますか?

「安く買えるからいいじゃん」「作家さんへのお布施として新品を買う」「本屋で見つからない古い作品なら中古かな」など、いろんな意見を友人から聞いたり、ネットで見たらします。が、その中に

 

「中古本は他人が触っていて嫌だから新品を買う」

 

という意見を聞きます。

 

ですが、それは本当に新品でしょうか?

 

まず、多くの本は返品制のもと流通しています。

これは、本屋は出版社から取次を通して本を卸しますが、売れなかった場合に返品することができるという制度です。普通の食品や日常雑貨ではメーカーから仕入れた商品は店が買い取りますので売れなければ店の損になります。しかし、本においては店は陳列を頼まれているだけのような形となっているのです。

 

では、その返品された本はどこに行くのでしょうか?

裁断されて再生紙の資源となることもあります。しかし他の需要のある店へと回すこともあるのです。

 

そう、本屋に並んでいる商品はすべてが印刷されてすぐきているのではないのです。

一部は他の店に渡り返品されたのがあるのです。

 

つまり、他人の手を避けて中古本ではなく新品を買おうにも、それは他人の手に触れている可能性があります。

 

ただし、返品されている本が一目でわかる方法があります。それは小口研磨の有無です。

小口研磨とは、本が削られている状態のことです。

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上の写真がその状態の本となります。

 

特徴としては、本の小口部分(ページをめくる部分)の手触りが違います。光の影ができるようかざしてみると、削った後がわかります。場合によっては、ページを開くときにページ同士がひっかかる、カバーが本に対して余っている、などがあります。

 

このような本は上の返品が関係してきます。返品された本の中で別の本屋に回すことがあると書きましたが、陳列している間に汚れた、運搬時に汚れた、陽が当たって変色した、などした小口を削ります。そして場合によっては表紙を新しいのにかけ直して再び流通させるのです。

 

このような本はもはや、中古本より綺麗とは言い切れません。

 

ここまで読んだ人で、「漫画とかラノベはビニールがかかってるから嫌いじゃないの?」と思った人もいるかもしれません。

しかし、漫画やラノベの中には本屋でビニール(シュリンク)をかけるものもあります。そのような物は流通過程で汚れてしまうものや、前の書店ではかけられていなかった可能性もあります。だから油断は禁物です。

 

そして、特に書店にないマイナー本だからネットで買いたいという場合に注意することなのですが、ネット通販で新品を買う場合は研磨された本が送られる可能性が高いです。

 

 

ここまで書きましたが、もちろん中古本の中にも汚れのひどい本があったり、新品でも出たばかりの新刊などは綺麗です(返品して回されるのにも時間がかかりますから)。

ですが、中古本だからといって持ち主が丁寧に扱っていて新品より綺麗ということもありますので、一括して拒否せずに柔軟に考えて欲しいです。